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「義務付け・枠付けの見直し」で自治体の独自基準は増えるか?

2012年08月14日 公開
2023年09月15日 更新

茂原純(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センターコンサルタント)

 民主党政権は2009年の「地域主権戦略会議」の設置を皮切りに、国と地方の協議の場を法制化するなど、地域のことは地域が決める「地域主権」の確立へ向けた諸改革に取り組んできた。こうした改革の中で、いま成果が出るか否かが注目されているのが、「義務付け・枠付けの見直し」である。従来、保育所や公営住宅、道路、特別養護老人ホームなどの「施設・公物」の設置管理について、自治体は国の一律な基準に従わなければならなかった。しかし、昨年成立した地方分権一括法(第1次・第2次)により、こうした義務づけ・枠付けが見直されたことで、部分的ではあるが、国の基準を自治体の条例に委任する形で、自治体が地域独自の基準を設定することが可能となった。同法では、平成24年度中に条例を制定しなければならないことになっており、既に先行して条例を制定した自治体も出ている。

 自治体が独自色を打ち出す例のひとつに公営住宅の入居基準がある。いままで高齢者、障害者等以外は原則、同居している親族がいなければ入居が不可能だったが、過疎地域である島根県津和野町では、定住促進の狙いから、また愛知県は、失業者対策で離職者を支援する観点から、単身でも入居可能とした。また、従来は高齢者や未就学児童がいる世帯などの「裁量階層」に限定して、月収いくら以上は入居できないという入居収入基準を緩和してきた。今回の条例委任で、この「裁量階層」に「多子世帯(18歳未満の子どもが3人以上いる世帯)」(福井県)や新婚世帯(兵庫県)を追加したり、今までの「裁量階層」であった未就学児童がいる世帯を、中学生以下の児童がいる世帯に拡大する(奈良県桜井市等)自治体が出てきた。これらは子育て支援を図る目的で、子育て世代が公営住宅に住みやすくするための工夫である。

 このように、自治体が主体的に独自の基準を設定する事例が増えてきていることは、地域主権へ向けた大きな一歩であると言ってよい。ただし、「従うべき基準」として、国が従来の基準で拘束している部分がまだまだ大きいことも事実だ。例えば、保育所では保育時間などは自治体が基準を設定できるようになったが、居室(乳児室・ほふく室・保育室・遊戯室)の面積基準や必要な職員(保育士、嘱託医及び調理員)の配置基準等については、特例措置はあるものの、国の基準に従わなければならないままである。全国知事会や全国市長会等で議論や提案がなされているように、国が「従うべき基準」とした部分を見直す余地がまだまだありそうだ。

 義務付け・枠付けの見直しはこれで終わったわけではない。既に、地域包括支援センターの基準の条例委任などを盛り込んだ第3次の一括法が国会に提出されているし、国も地域の意向を踏まえて第4次の一括法に向けて準備を進めているところだ。次の第4次の一括法でどれだけ思い切った内容が盛り込まれるのかが注目だ。一方で、自治体側の条例制定へ向けたスケジュールがタイトなこともあろうが、国が示していた基準をそのまま踏襲している例も多く見受けられる。地域の実情に合わせて変える必要がなければそれでいいが、ここで政策形成力を示せないようでは、地域の自立はおぼつかない。第1次・第2次一括法を受けた条例制定は今年度中に行わなければならないが、その後、更に検討を重ね、改正することも可能である。これから様々な自治体で独自の基準が出てくることを期待したい。

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