2012年07月18日 公開
2023年09月15日 更新
7月に行われた鹿児島県、山口県知事選に続き、年内に新潟県、富山県、岡山県、栃木県の知事選が行われるなど、首長選挙が目白押しだ。国政では政権構想であるはずのマニフェストが行き詰まりの感を見せているが、地域経営者たる首長のマニフェストも形式的には定着をみせているとはいえ、その内容はまだまだ定まっているとは言えない状況にある。そこで今回は、首長マニフェストの次なる課題について、私見を述べてみたい。
第一に指摘したいのが、地域主権時代において、地域の特色を踏まえたビジョンが求められているのに、それを打ち出せていないマニフェストが多いということである。例えば、先の鹿児島県知事選で勝利した伊藤祐一郎氏のマニフェストでは、「力みなぎる・かごしま」「日本一のくらし先進県」というビジョンが掲げられている。残念ながら未来の具体的なイメージがわきにくいし、鹿児島らしさへのこだわりが見えてこない。
そもそもビジョンとは経営の概念であり、政策立案だけを考えていて出てくる発想ではない。少なくとも以下のような経営概念とともに、ビジョンを理解する必要がある。
まず、「理念」とは、地域経営を何のために行うのか、そしてそれをいかにして行っていくのかという基本の考え方である。次に、「ビジョン」は地域経営の実践の結果、10年後、30年後にもたらされる未来・地域像である。そして、そのビジョン実現に必要な成果を定義し、いつまでにどれだけ達成するのかを定めたものが「目標」である。さらに、その目標を中長期的に達成するための方策が「戦略」である。
理念をしっかり定め、理念に照らして現状を分析し、未来を洞察した上で、どのような地域を目指すのか、コンセプトを設定し、将来像を描く。こうしたビジョンの策定プロセスをしっかりと踏まえて欲しい。首長候補は地域主権を見据えて、どのような特色ある地域を目指していくのか、思い切ったビジョンを示すべき時期に来ている。
第二に、首長の役割は、個別政策を立案することではない。首長は企業で言えば、社長だ。その社長がすべての商品の企画をするなど土台無理な話だ。仮にそれをやって上から押し付けたところで、社員のモチベーションを落とすことにつながりかねない。首長がなすべきは、地域経営の方向性を示すことと、職員等のやる気を高めて成果をあげることである。基本的には、具体的な個別政策は、現場を知り尽くした役所の職員を活かして立案させるのが望ましい。事実、首長当選後、自治体内にシンクタンクを設立したり、職員研修と絡ませたりして、マニフェストの具体化を職員に委ねるケースも増えてきている。
したがって、首長のマニフェストで個別政策をだらだらと並べるのは、筋違いだと私は考える。理念、ビジョン、戦略を提示して、職員による個別政策のイノベーションを促す(場合によっては戦略も)、これが本来あるべき姿だ。ただし、選挙の際、具体的な政策を何も持ち合わせていないのでは困る、というのも確かである。ビジョン実現のための各戦略について、自分の信念をもって「これはやるんだ」という優先順位の高い個別政策は提示するべきだ。また、当選後、マニフェストで掲げたビジョン・戦略にそって、職員によって立案された個別政策の実現は、首長の実績としてアピールすればよい。
最後に、国政と同じく、地方でも解決できていないマニフェストの問題が、財源の確保だ。多くの個別政策をマニフェストに盛り込んだために、新規事業の予算が膨らんでしまう自治体もいまだに見受けられる。多くの自治体が財政難で苦しむ中、これは早期に解決しなければならない問題だ。
現職の首長候補の場合は、役所のリソースを使えるので、そうした心配はほとんどないが、新人のマニフェストに多くの個別政策が盛り込まれるときに、この問題が起こる。やはり現場に精通した役所側で、マニフェストのコストの見積もりや、総合計画との整合性などをチェックして提示できる仕組みを考えるべきであろう。役所としても、事前にチェックして、あまりに予算増になったり、総合計画との乖離が大きすぎたりする場合には、早めに指摘できた方がいいはずだ。その情報を候補者のみに提示するのか、一般に公開するのか等、いろいろな制度設計上の問題はあろうが、財源の問題をクリアするには、役所を活用していく方向が望ましいと考える。
以上、首長マニフェストの次なる課題について触れてきた。地方は首長の経営力で大きく変わる。マニフェストは地域経営の出発点であることを認識して、首長候補には地域のビジョンを描いてもらいたい。なお、PHP地域経営塾では、首長候補を主たる対象として、毎年「マニフェスト講座」を開催している。本講座では、マニフェストを地域経営のビジョンと戦略の体系と捉え、その作成と実現について学ぶためのプログラムを提供する。
もし、読者の中に将来、首長を目指す方がいらっしゃれば、是非、ご参加をご検討いただきたい。
更新:11月24日 00:05