2012年06月25日 公開
2023年09月15日 更新
東日本大震災時に学校がどのように対応したか。その調査報告書を先月末、文科省が公表した(文科省『東日本大震災における学校等の対応等に関する調査報告書』)。
報告書は、学校が地域と連携することの重要性をくり返し指摘する。「津波被害の歴史や地形の特徴など、地域の方でなければわからないことまで教えていただいた」、「生徒が地域住民の一員としての防災意識が高まり、災害時に生徒が地域の高齢者の避難を補助するなどの行動をとった」など、地域連携による効果があげられている。
文科省は、この調査以外にも、ベネッセコーポレーション、国士舘大学・日本教育経営学会、日本私学教育研究所に委託し、震災時の学校の対応に関する調査を実施した。ベネッセコーポレーションの調査報告書が地域との連携に焦点をあてて結果を分析しており、興味深い(株式会社ベネッセコーポレーション『震災時における学校対応の在り方に関する調査研究』)。
ある中学校では、震災前から町内会と連携し、合同避難訓練の実施や避難所運営についての話し合いを進めていた。震災時に学校に開設された避難所では、町内会を中心とした避難所運営が行われたという。地域住民に「自分たちも運営者である」との意識が生まれていたからだ。
自治会・町内会と連携していた学校は、連携していなかった学校より、避難所自治組織の確立がうまくいった割合が高いことがデータからも明らかになっている。
日ごろからの地域との連携が、災害対応に差を生むことになるのだ。
地域との連携といった場合、具体的に学校は何をしておくべきか。
文科省は、学校防災マニュアル作成の手引きのなかで、地域と連携した避難訓練の実施を促している。さらに、訓練時の問題点について地域住民から意見を出してもらい、マニュアルの改善を行うべきことも手引きは提示する。
だが、これまでのところ、地震に対する避難訓練に地域住民が参加した学校等の割合は調査対象校のうち4%に過ぎない(文科省調査報告書より)。地域住民のさらなる参加を検討すべきだ。
地域住民の参加を促進するために、まず学校評議員制度の活用から考えてはどうか。この制度は地域住民が学校運営に関与する仕組みであり、ほとんどの学校で設置されているからだ。
学校評議員である地域住民に避難訓練に参加してもらい、学校防災マニュアルの問題点を話し合う会議を設ける。避難訓練への参加だけでなく、マニュアルの検証に地域住民に参加してもらうことが重要だ。文科省の調査報告書にはつぎのようなコメントが載っている。
「危機管理マニュアルはあくまでも一つの指針であり万全なものではない。しかし、実際の災害の状況を教訓に、災害から命を守り、連携して対処できる術をイメージすることや、いざというときに備え、日々点検や見直しをして施設環境を整備していくことは重要である」
教職員と地域住民が共同で災害時の対応をシミュレーションすることは、より円滑な災害対応につながるはずだ。
東日本大震災での対応の記録は、貴重な教訓である。震災時の経験に学び、全国の学校で地域との連携を深め、災害に備える体制づくりを推進すべきであろう。
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<研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク
更新:11月22日 00:05