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TSUTAYAが公立図書館を運営へ

2012年06月11日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター主任研究員)

 佐賀県武雄市が、来年4月から市立図書館の運営をレンタルソフト店「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC社)に委託する計画を進めている。樋渡啓祐武雄市長は、5月に新図書館構想を発表した際、「市民の生活をより豊かにする図書館を作り上げる」ため、「顧客価値を追求した(蔦屋書店の)ノウハウを注ぎ込んだ図書館という場を作り、市民価値を追求したい」と、構想の狙いを強調した。運営計画の詳細については、6月4日に開会した市議会でも議論されている。図書館の新たなロールモデルが実現するか、議論の行方が注目される。

 樋渡市長が提起した「市民価値」とは、〔1〕20万冊の開架(雑誌、新刊本を含む)、〔2〕雑誌が買える図書館、〔3〕映画・音楽の充実(DVDとCDは有料貸し出しを含む)、〔4〕文具販売(プライベートブランド含む。市はスペースの賃借料を得る)、〔5〕検索・ITソリューションの充実、〔6〕カフェダイニングの併設、〔7〕蔦屋書店のノウハウ注入、〔8〕図書館カードに変えて、TSUTAYAのTポイントカード利用(Tポイントが貯まる)、〔9〕開館時間の拡大と年中無休、である。

 過去に例を見ない図書館機能が提起されたためか、構想には賛否両論がある。5月末に「武雄市の新・図書館構想について」と題する見解を表明した社団法人日本図書館協会に代表されるように、市外から懸念が寄せられるケースもあるようだ。例えば、同協会が指摘しているのは、図書館サービスの「付属事業」に対してのものである。雑誌販売や文具販売、Tカード・Tポイントなどの付属事業の導入が、本当に図書館サービスの改善に役立つのかと、懐疑的な見解を示している。教養、調査研究、レクリエーション等に図書館が資することを規定した図書館法などの法規制を前提とすれば、こうした懸念にも一理あるかもしれない。

 最大の懸念材料は、新図書館構想の目的である「市民生活の豊かさ」の内容が不明確なことである。新図書館構想の核心的論点は、何よりもまず、「市民生活の豊かさ」の具体像(目的)を定め、その上で目的実現に資する図書館の機能(手段)を決定することである。これに対して、図書館の運営主体は直営・民営のどちらが良いか、図書館は貸本と調査相談機能のどちらを充実するべきか、そして、どのような専門性を持った職員がどこにどれだけ必要なのか、CCC社との契約やTカード導入の是非などは、いずれもその後の手段論である。

 図書館サービスの主たる受益者は、武雄市民であることも忘れてはならない。それだけに、構想の是非を判断する議会には重要な役割と責任がある。新図書館構想の実現には、市議会の議決が不可欠だからである。6月議会には上程中の「武雄市図書館・歴史資料館設置条例の一部を改正する条例」に加え、図書館を民営化した場合の既存職員の雇用問題、施設の一部改築費用への対応策など、残された論点の審議も求められる。

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