2021年08月04日 公開
新型コロナ禍により、日本が長年にわたり着手できなかったデジタル化の遅れが露呈している。そんな状況を打開すべく、東京都では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を梃子に都の行政システムを変革する「シン・トセイ 都政の構造改革QOSアップグレード戦略」(以下「シン・トセイ」)が打ち出されている。
旗振り役を務めるのは宮坂学副知事。ヤフー株式会社の社長や会長を歴任した経験から、内外よりその手腕に期待する声が寄せられている。「シン・トセイ」とはどういう構想なのか。「東京都を起点に日本を牽引する」という宮坂副知事の取り組みと覚悟について聞いた。【聞き手:Voice編集部(中西史也)】
※本稿は『Voice』2021年8⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
「シン・トセイ 都政の構造改革QOSアップグレード戦略」(2021年3月、東京都)より抜粋
――宮坂副知事は2019年9月の就任以降、成長戦略及び働き方改革など多岐にわたる改革を推進されてきました。そのなかでも、今年(2021年)3月に発表された「シン・トセイ」は肝煎りの施策かと思います。どのような経緯でこの構想に至ったのでしょうか。
【宮坂】新型コロナ禍に直面するなかで、とりわけ行政のDXの遅れが顕在化しました。デジタルの力を使い倒すには情報技術で何をつくるかだけでなく、情報技術に適した制度や仕組み、文化への構造改革が必要です。
そこで、昨年8月に、制度や仕組みの根本まで遡った「都政の構造改革」に着手しました。それが「シン・トセイ」です。構造改革は武市敬副知事がリーダー、僕はサブリーダーとして、とくにデジタル分野を担当しています。
新型コロナ禍以降、日本のデジタル化の遅れをあらためて痛感している方は少なくないはずです。政府はIT社会の実現をめざして「e-Japan」構想を2000年に掲げましたが、以降、デジタル化への動きは進まず、世界に取り残されたといわざるをえなかった。
今回のコロナ禍で、東京都も、それまで停滞していたデジタルに基づく構造改革を加速しなければならないとの決意を新たにしたわけです。
――「シン・トセイ」によって、東京都民の生活は具体的にどのように変わるのでしょうか。
【宮坂】デジタルの力を活用することで、行政サービスの利便性が格段に向上します。たしかに現在でも、住民票や戸籍謄本といった行政手続きの一部は電子上のサービスを利用できますが、オンライン上で完結まではできません。
書類に必要事項を記入して、役所に足を運んで対面で提出するなど、ペン、紙、FAX、窓口対面、押印、現金決済といった、昭和の技術基盤に立脚したリアル空間での手続きがまだ残っている。
いまよりもさらにデジタル化を進めて、あらゆる手続きがオンライン上で完了できるようになれば、都民の負担は圧倒的に減るでしょう。
民間企業が対応する行政手続きのコストは、金銭換算で約3兆円、従事人数換算で約71万人という試算があります。この人数換算コストは、我が国の農林漁業従事者数の二倍という規模感です。
――高齢者をはじめ、デジタルツールの活用に慣れない方もいるでしょう。都としてどのような対策を講じていきますか。
【宮坂】「シン・トセイ」では、あくまでもデジタルによる手続きをしたい人がストレスなくできることをめざしています。「オンラインか、リアル空間か」とゼロイチで考えるのではなく、旧来の紙や対面による方法も残していくことになるでしょう。
デジタルでの手続きのほうが便利な方はそれを利用すればよいし、苦手意識がある方は従来のやり方で構いません。現在は、対面よりもデジタルを好む人にまでアナログな手法を強制している不健全な状態です。
――昔ながらの行政サービスに上乗せするかたちで、デジタルの力を活用していくわけですね。
【宮坂】我々がめざすべきは、QOS(クオリティ・オブ・サービス)を向上させ、都民の皆さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることです。
デジタルはあくまでも、行政サービスの品質向上のための手段にすぎない。行政手続きの完全デジタル化を実現させても、従来よりもむしろ使いづらい仕組みになってしまっては本末転倒でしょう。
我々が実現すべきは、世代やデジタルリテラシーの如何にかかわらず、都民の誰もが安全・安心で幸せを享受できる社会なんです。
更新:11月21日 00:05