2020年10月09日 公開
2020年10月12日 更新
リーダーには危機に対応する指導力が求められる。コロナ禍の陣頭指揮を執る熊谷俊人千葉市長は、安倍晋三前総理と、ドイツのメルケル首相や吉村洋文大阪府知事のリーダーシップにはある違いがあったという。国民から支持されるか否かを分ける“リーダーの条件”について、若き敏腕市長が語る。
※本稿は『Voice』2020年10月号より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:Voice編集部(中西史也) 写真:吉田和本
――日本は欧米諸国に比べて新型コロナによる死者数を抑えているものの、安倍政権の支持率は低迷していました(8月14日時点で32.7%、時事通信調べ)。有事には指導者への支持が高まるとされますが、安倍政権の対応が国民にあまり受け入れられなかったのはなぜでしょうか。
【熊谷】一つは、危機に際しては政治や行政の不行き届きの面ばかりをクローズアップするマスメディアの報道姿勢が影響しているのではないでしょうか。もちろん、政権の対応に不十分な面があるのは事実ですから、報道の自由として大いに批判するべき点には声を上げるべきです。
ただし、客観的にみて成功している政策を取り上げず、それどころか揚げ足を取るばかりでは、どうして日本がより良い社会を築くことができるでしょうか。あらためて是々非々の報道姿勢の重要性を痛感しました。
もう一つは、リーダーが自らの言葉で覚悟を込めたメッセージを出せているか否かです。今回ほどの難局でさえ決められた文言をただ読んでいるようでは、国民に熱量が伝わるはずがない。
後世に歴史的な批評がなされることを認識したうえで、リーダーが「自らの言葉」で発言しているかどうか。国民も無意識に見極めているはずです。指導者に問われているのは、語る中身の緻密さではなく、発言に込められた思いと覚悟です。
――たとえば、ドイツのメルケル首相は3月18日のテレビ演説後、それまで落ち込んでいた支持率が急回復しました。
【熊谷】私も演説を拝見しましたが、間違いなくメルケル首相自身の並々ならぬ思いと信念から発せられた言葉でした。リーダーが自らの言葉で発信することは、気持ちが伝わりやすい半面、強く批判されるリスクも伴います。
組織としてではなく個人の次元で語っているために、発言の全責任は自らが負うことになる。日本でも大阪府の吉村洋文知事が府民から高い支持を得ているのは、吉村知事が「自身の考え」を「自らの言葉」で語っているからでしょう。
もちろん、8月の「イソジン騒動」のように物議を醸すリスクも十分にありますが、それすらも覚悟のうえで政策を訴えているため、府民は知事を評価しているのだと思います。
――危機においては、国民の支持を得るために大胆で聞こえのいい政策が採られがちにみえます。
【熊谷】とりわけ今回のような未知の感染症への対応については、ハンマー(感染を抑える政策)のほうがダンス(社会経済活動を動かす政策)よりも支持を得やすいんです。
誰しも少なからず自分の身に不安を感じているのですから、当然でしょう。しかしハンマーは短期的には効果的でも、長期で続けていると社会活動が停滞してしまう。
リーダーがハンマーを振り下ろす際には、相当慎重であるべきだと思う。一方のダンスは、「感染者が増加しているいま、なぜ経済活動を進めるのか」との批判がどうしても避けられない。そこで必要になるのが、国民やメディアとの入念なコミュニケーションです。
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更新:11月21日 00:05