2014年03月26日 公開
2022年12月08日 更新
震度6強を観測した余震に一瞬ヒヤリとしたものの、それほど大きな混乱もなく、余震前の状況を取り戻すのにそう時間はかからなかった。心配されたライフラインの途絶も、翌8日夕方の電力復旧を皮切りに順調に回復していた。ただ、それはあくまで余震前に戻っただけのこと。震災からこの方、電気がつかず水も途絶えているところにとっては、「何も変わらない」日常に他ならなかった。
この頃から私は、避難所に泊まり込んだり、徐々に活動の範囲を広げながら、さらに被災地の実情をつかみ取ろうとしていた。いきおい、何だこれは、と思うような状況に遭遇することも増えていった。
「これ、いくらなんでもひどくないですか」
物資集積所のひとつになっている県立高校の体育館に伺うと、ほかの自治体からの応援で来られている職員さんに詰め寄られた。高校の授業を再開するから、始業式までに体育館の物資をよそに移せと、教育委員会から言われたというのだ。結局、大型トラックで10台分以上にもなる物資を運び出した先は、市内の小中学校。玉突きで移動することになった避難者もいる。支援物資の保管・配送は市の業務だから市が場所を確保すべき、と言われればその通りだけれど、まったく不条理な話だ。
避難所となっている小学校のグラウンドに仮設住宅が建てられる予定なのだが、目の前には統合して今は使われていない元県立高校がある、ということもあった。子どもたちの運動の場をこれ以上奪いたくないからあそこに仮設を、と願い出ると、用地提供するつもりはないという。聞くと、仮設住宅の用地確保は市の仕事だから市有地などでまかないきれないときにはじめて検討する、というのだ。こんなときに行政の仕切りや都合ありきで考えるとは、なんと度量の狭いことだろうか。
別の小学校では、地区本部は地域役員、駐屯する自衛隊らに事前の連絡も無しに仮設住宅を建設するための測量を業者が始めていた。その場に、県と市の立ち会いがない。自家用車の駐車スペースや、車中泊の人たちの居場所を確保する策も用意されていない。そもそも、地元は民地活用を提案し、用地も独自に調整して見込みが立っている。にも関わらず、それを無視したまま早期建設ありきで進められている。地元の方々の憤りは、至極もっともだった。この4月中旬という時期、同じような不条理な光景が、被災地の至るところで見受けられた。
この時期、こうした避難所には慰問に訪れた国会議員の名刺が積み重ねられていた。ほぼ毎日のように、政務三役ないしは政党幹部も現地入りしている。地元の自治体も、それぞれの避難所も、そして現地対策本部も、嫌な顔ひとつせず対応しているものの、視察が相次いでいる状況に疲労の色が濃くなっているように見えた。その裏返しで、組まれる行程も、行きやすい・見やすい・話しやすいところが優先されている感が強かった。そもそも、地元の被災者から批判や疑問を向けられる視察では意味もない。
私は、要対応事項としてレポートにこう記した。視察を真に必要とする人に絞り込み、かつ単独ではなく複数相乗りで来られること。チラ見程度の駆け足視察ではなく、1か所1時間以上かけてじっくり見て聞いてまわること。事前の根回しは最小限にして、できるだけ飛び込みで、自己完結型で被災者の実生活に触れること。この3点を、官邸から政務3役、そして与野党の皆さん方に依頼していただきたい、と。このとき、視察対応で私自身が忙しくなるとは思ってもいなかった。
(つづく)
<研究員プロフィール:熊谷 哲>☆外部リンク
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更新:12月04日 00:05