日本の政治家と、他の国の政治家を比べてみると、大きな違いが見えてくる。例えば、西欧諸国の地方議員の多くはボランティア活動に近い形で政治に関わっている。一方、日本の国会議員は多額の報酬や特権を受け取ることが一般的だ。「政治にはカネがかかる」という日本の常識の歪みについて、橋下徹氏による書籍『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』より紹介する。(写真:的野弘路)
※本稿は、橋下徹著『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。
昨今はPTA活動の大変さが話題になっています。最大の問題は、負担や責任がそれなりにあるのに無給だという点です。
仕事や介護に育児もある、家庭での雑事が山ほどあるなかで、PTA活動のための時間を捻出して学校に行かなくてはならない。誰かがやらなければならないのはわかるけど、正直やりたくない......というのが本音の人が多いのではないでしょうか。
生徒会も学校内での活動ですから、もちろんボランティアです。塾や習い事、部活もあるなかで、どうバランスを取っていくのか大変な部分もあるでしょう。
ところが「政治」が本職である「政治家」は、ボランティアではありません。それどころか、かなりの額のお金がもらえます。
そのお金のほとんどがちゃんと「政治」のために使われていると僕も信じたいですが、いかんせん領収書も確定申告もない以上、自己申告をどこまで信じられるのか、という疑問は残ります。真相は本人にしかわからないのですから。
日本の政治家、とくに国会議員が得られる特典は、お金だけではありません。国会議員になれば、新幹線に乗り放題、グリーン車も無料。京都・大阪・奈良から西、あるいは岩手・秋田・山形から東の選挙区の国会議員たちは、選挙区と東京の往復飛行機代が月3回まで無料です。
海外へ行けば、日本の大使館職員や領事館の外務省職員がアテンドしてくれます。偉い地位に就けば、電話一本で職員が駆けつけてきてくれて、疑問があれば丁寧に答えてくれる。地方では「先生」と呼ばれる......要するに「特別扱い」です。
国会議員になれば一目置かれ、特別扱いされ、ちやほやされる。仮に生徒会役員は報酬が年間100万円ついて、電車も飛行機も乗り放題、どこに行っても「会長!」とちやほやされ、贈り物も自宅に届くとなったら......そりゃあ留年してでも、そのうまみを手放したくはありませんよね(笑)。
まさにその状態が、日本の政治家、とくに国会議員が得ている特権です。
ところが、こんな国会議員にとってウハウハな制度は、先進諸国では日本くらいです。さらに西欧諸国では、地方議員の多くはボランティアです。
たとえば、フランスの地方議員は無報酬が基本で、ほかに仕事をして収入を得ています。イギリスもロンドン議会議員以外は原則無給。彼らにとって「政治家」というポジションは名誉職に相当します。
イタリアは働いた分だけ日当が支給されますが、決して高給取りではありません。議会で居眠りなんかしていては、その日当ももらえないのではないでしょうか......。スウェーデンも地方議員は原則無給です。彼らもほかに職業を持つ兼業政治家です。
ドイツでは、地方議会は原則夕方から開かれるそうです。議員たちが、それぞれの仕事を終えてから参加できるように。要するに、「政治にはカネがかかる」という日本の常識は世界の非常識だということです。
政治家、とくに国会議員になれば、高級レストランや高級料亭に通い、高価なワインや土産物を贈り合う......たしかにそんな日常を送っていれば、いくらお金があっても足りないのは当然でしょう。
でも、そんな「政治」はもうやめにしましょうよ。町内会も学校のPTAも、生徒会も基本的に無報酬のボランティア。「そんなものと実際の政治は次元が違う!」と言うならば、西欧先進諸国の地方議会はどうなるのでしょうか。日本だけが「カネがないと政治ができない」と言い続けるわけにはいかないでしょう。
もちろん、いきなり無報酬にすることはできなくても、少なくとも「政治家をやれば民間にいたときよりもはるかにいい暮らしができる」という状態は改善すべきです。
だいたい税金も払わないで済むお金を年間数百万円、数千万円、時に数億円レベルで手にできる専業政治家が、一般国民と同じ感覚で社会を見ることができるでしょうか? 仕事がない人、働きたくても働けない人、生活が苦しい人の感覚を、我が事のように感じられるでしょうか?
「政治」は、この世の中を良くするために必要不可欠なプロセスです。本来、国民全員が関わるべき作業ですがそれが現実的ではないため、一部の「政治家」に託し、実現してもらう間接民主制を日本は原則としています。つまり、一般の国民の感覚と政治家の感覚が近づかなければ良い政治はできません。
その原点に立ち戻り、もう一度「政治とは何か」「政治家とはどういう存在か」を、皆で考え直す時期にきているのではないでしょうか。
更新:12月22日 00:05