2021年07月06日 公開
2021年07月06日 更新
医療従事者や65歳以上の人々以外にも広がり始めているワクチン接種。一日でも早い集団免疫の獲得に向け、接種率の推移を今後どのように受け止めていくべきなのか。
本稿ではワクチンの話をできる限りやさしく噛み砕いた書『今だから知りたいワクチンの科学』より、意外と知られていない「集団免疫達成」の基準、その考え方について書かれた一節を紹介する。
※本稿は、中西貴之・著、宮坂昌之・監修『今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために』(技術評論社 刊)より一部抜粋・編集したものです。
筆者は毎年必ずインフルエンザの予防接種を受けていますし、周囲の人にも受けることを勧めています。
ワクチンを誰のために接種するのか問われれば、まずは自分がインフルエンザにかからないようにするためだと思います。誰かのために自分がワクチンのリスクを取るという考え方には賛同できません。
また、接種をせずに職場などで感染症をもらってキャリアとなり、家庭に持って帰ってしまう心配は十分に配慮するべきでしょう。
その次に他人の心配をします。自分の気づかないところで、たとえば満員電車などで他の人にうつす可能性も高いですし、もし、妊婦さんなどにうつしてしまうと大変なことになります。たとえ見知らぬ人であってもそのような迷惑源や加害者に自分はなりたくないと思っています。
ワクチン接種をするべきであると筆者が考える理由は、そのような自分の周囲だけの問題だけではありません。
社会において、多くの人がワクチンを接種すれば、たとえば地域、たとえば職場のような集団の中で感染しない人が多数を占めるようになり、その集団全体が感染症のリスクを回避することができるようになります。
このような現象を「集団免疫」といいます。
集団の中にどの程度免疫を持っている人がいれば集団免疫は達成されるかは、感染症の種類によって異なります。図にその目安を示しました。
インフルエンザの集団免疫が達成されるために必要な免疫保有者率は30~75%と感染症の中では比較的低く、集団免疫の効果が得やすい疾患です。自分のため、そして周囲の人のためにも予防接種を受けましょう。
ここでの「集団免疫閾値」が集団免疫獲得のために達成すべき免疫保有者の割合となります。「基本再生産数」は感染力の強さを示す数値で、一人の感染者が周りの免疫のない人のうち何人に感染させるのかを示します。
麻しん(はしか)は感染力が非常に強く、感染者が一人出ると、その一人が周囲の12~18人に麻しんを広げてしまうことになります。しかも集団免疫閾値は90%前後ですので、集団の9割くらいの人が免疫を持っていないと、はしかの感染が続いてしまうことを意味しています。
更新:11月22日 00:05