2016年12月22日 公開
2023年01月12日 更新
主:まず、こういう資料が出てくる。内閣府のデータ(*注3)だが、交通事故の「死者数」はここ13年間減少の一途で、平成25年では4373人、うち65歳以上の死者は2303人で、やはり減少気味だが、他の世代の減少カーブのほうが圧倒的に急なので、交通事故死者全体の中で占める割合としては増加していることになる。でも、これは「被害者」のほうだからね。歩いている老人がはねられるというケースが多いんだろう。
このことは別の資料(*注4)に当たってみると確かめられる。歩行中が1050人くらいで、約半数。自動車乗車中は600人から700人のあいだを推移していて横ばいだ。「乗車中」ということだから「運転中」はもっと少ないことになるよね。いずれにしても、「高齢者は交通事故に遭いやすい」ことは当然で、それは高齢者ドライバーが他人を殺める割合が高いかどうかとは直接の関係がない。でも世間では「高齢者は危ない」というイメージを抱いていて、そのことと、「高齢者ドライバーは事故を起こしやすい」という先入観とを混同しているんじゃないかな。だから報道の関心がそちらのほうに集中して、そういう事件を好んで取り上げるようになる。どうもそう思えるんだけどね。
客:先入観か事実かどうか、まさにそこを調べるわけだろ。
主:そのとおり。その前に、君が初めに挙げた5つの事故の「死亡者」は、全部合わせると6人になる。約1カ月のあいだに6人という数字は、年間に換算すると70人余り。亡くなった方には不謹慎な言い方になって申し訳ないが、この数字は、現在の年間交通事故死者総数約4000人という数字に比べて多いといえるだろうか。割合にするとわずか1.8%にしかならないよ。もっとも80歳以上の高齢者ドライバーの数はすごく少ないだろうし、また報道されない事故があった可能性もあるけどね。
客:もう少しびしっと結論付けられる資料はないのかな。
主:それをいま探しているところだ。……あった、あった。これは少し古いが決定的だ(*注5)。丁寧に読んでみてくれ。(一部語句、改行など変更)
平成24年の65歳以上のドライバーの交通事故件数は、10万2997件。10年前の平成14年は8万3058件だから、比較すれば約1.2倍に増えている。これだけを見ればたしかに「高齢者の事故は増えている」と思ってしまうだろう。しかし、65歳以上の免許保有者は平成14年に826万人だったのが、平成24年には1421万人と約1.7倍となっている。高齢者ドライバーの増加率ほど事故の件数は増えていないのだ。
また、免許保有者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は17%。しかし、全体の事故件数に占める高齢者ドライバーの割合は16%で、20代の21%(保有者割合は14%)、30代の19%(同20%)に比べても低いことがわかる。
年齢層ごとの事故発生率でも比較してみよう。平成24年の統計によれば、16~24歳の事故率は1.54%であるのに対し、65歳以上は0.72%。若者より高齢者のほうが事故を起こす割合ははるかに低い。この数値は30代、40代、50代と比較して突出して高いわけでもない。
また、事故の〝種類〟も重要だ。年齢別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、16~24歳が最も高く(8.52人)、65歳以上はそれより低い件数(6.31人)となっている。
客:うーむ。
主:つまり、これから推定できることは、認知症の人は別として、高齢者は概して自分の心身の衰えをよく自覚していて、また経験も豊富なので、慎重な運転を心掛けているということになる。だから、マスメディアの流すイメージを鵜呑みにして、「高齢者の免許証を取り上げろ!」などと乱暴なことを言う人が多いけど、それはナンセンスだな。俺のドライバー歴は約30年だけど、俺も若いころのほうが事故を起こしていたよ。ここのところけっこう車を使っているが、10年ばかり無事故だ。でもたしかに自信過剰は禁物だね。また一口に高齢者といっても、65歳と75歳と85歳とでは衰え具合が全然違うだろう。その辺のきめ細かな分析視点も大事だと思うよ。
客:うーむ。マスメディアの流す情報に踊らされてはダメだということだな。俺も免許証返上や規制強化論については、少し考え直すことにしようか。