2013年03月26日 公開
2024年12月16日 更新
早稲田大学政治経済学部教授で東京財団上席研究員でもある原田泰氏が、東京財団とともに『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所)を上梓しました。
TPP参加の是非が話題になる中、その意図はどこにあるのでしょうか。
本書の目的は、TPPへの参加によって起こりうるとされている懸念が大げさなものであり、TPPは日本を豊かに強くするものであることを説明することだ。まず第1に、世間で言われているTPPへの参加反対論の根拠とされているものがまったく薄弱であることを説明する。第2に、そのうち特に話題となった「毒素条項」を、ISDS(投資家・国家間の紛争解決手続き)条項を中心に詳しく解説し、毒素のようなものではないことを示す。第3に、TPPが農業部門に損失を与えるのは事実なので、それがどのくらい大きいものかを説明し、構造改善の途と損失を補償する手立てを説明する。第4に、交渉力の弱い日本政府にTPP交渉を任せることが心配だという意見があることから、これまでの日本の対外交渉での交渉力をレビューし、日本政府の交渉力が弱いとは一概には言えないことを示す。第5に、TPPの経済効果についても様々な誤解があるので、誤解を解き、適切な考え方を示す。
私たちは、日本が世界の中で生きていくためにTPPに参加することは当然であり、自由で公正な貿易ルールを自らも守り、他国にも守らせることが、不可欠なものであると考える。TPPに参加するとは、TPP締結国以外とは国を閉ざすということではなくて、すべての世界と自由な貿易を通じて繁栄を分かち合っていこうという決意を示すものである。
したがって、TPPはアメリカを中心としたブロックで、中国を排除しようとするものではない。あらゆる国に対して、国際社会の平和と安全と繁栄のためになる自由な貿易と投資の共通のルールを定めようというものであり、いかなる国にも開かれているものである。
TPP反対論の多くは現在の既得権者のものであり、また、既得権を認めるとしても、農業以外については、その既得権が侵されることもほとんどなく、国民全体の利益が侵されることもない。すなわち、単純労働者や専門職の大量流入で日本人の労働条件や専門サービスの質が低下することはない。医療保険制度が壊滅することも、食品の安全が脅かされることもない。金融サービスで混乱が起きることもなく、小さな自治体にまで国際的な政府調達が求められ、事務手続きコストが過大になることもない。
農業についても、TPPへの参加でできなくなるのは国境での保護であり、国内的に保護することは引き続き可能である。もちろん、TPPへの参加を契機として農業の構造改革をすることが望ましいが、それができなくても大きな問題を引き起こすことはないということである。
農業以外のTPP反対論者の指摘のうち、合理的だと思えたのは「円高の効果は、短中期的にはTPPによる相互の関税引き下げの効果よりも大きい」という指摘だ。それには、金融緩和による円高の阻止が有効であるが、円高阻止とTPP参加はともに進めればよく、このことは、TPPと日中韓、あるいはそれ以外の国とのFTA交渉を同時に進めればよいということと同じである。
「毒素条項」と言われるものも、外国企業に対して内外無差別な取り扱いを求めるもので、むしろ、日本が他国に対して求めるべきものである。
あらゆる国際交渉は、相互に同じことを他国に求めるものだ。他国にある制度を求めるなら、自国も同じ制度を有していなければならない。あらゆる国が国民を守るための制度を持っているのであり、その制度を他国にも適用すれば、それは他国の国民を守る制度になる。ということは、理論上、自国民を守る制度が他国に存在すれば、労働者の保護や食品安全が危うくなることはない、ということだ。
いずれにしても、自由、平等で公正な取り扱い、開放、透明性、客観性などの価値を世界に広げ、日本の国内においてもその原則に立って生きていこうという決意は、日本が、新たに成長を目指すうえで一層重要である。日本は、TPPに参加し、貿易で成長を求め、国内の規制改革とともに一層の発展を目指すべきである。
《『TPPでさらに強くなる日本』まえがき・結論より》
(はらだ・ゆたか)
早稲田大学政治経済学部教授、東京財団上席研究員
1950年生まれ。1974年東京大学農学部を卒業、同年経済企画庁に入庁。経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、2011年より東京財団上席研究員。
著書『日本国の原則』(日本経済新聞出版社、現在は日経ビジネス人文庫に所収)で石橋湛山賞を受賞。2012年より早稲田大学政治経済学部教授。
更新:12月22日 00:05